大久保利通について。

副業でやってる図書館探偵の仕事ですが、今週は今までになく暇でした。それで個人的興味から大久保利通関連の書物について調べてみました。
鹿児島市立図書館には「郷土資料室」という、郷土の偉人に関する書物や市誌、町誌、村誌、古地図などが所蔵されてるコーナーがあります。
ところが、ここは人気がないらしく、いっつも人がスカスカで、贅沢な気分になれる秘密の場所です。
で、大久保利通について。
鹿児島では驚くほど大久保利通は人気ありません。
というか、大西郷を死に追いやった裏切り者として嫌われてるといっても過言じゃありません。
西郷が没したのは明治10年、大久保が没したのが翌11年。
鹿児島市西郷隆盛銅像昭和12年に設置されたのに対して、
大久保利通銅像鹿児島市に作られたのは昭和54年になってからでした。また、その時にも根強い反対運動があったという事実もあります。
(ちなみに、上野の西郷隆盛像は明治30年に作られました)
そんなお国柄が如実に反映してるのは、
その郷土資料室における大久保関連の書籍の数が10冊にも及ばないという事です。
前置きが長くなりましたが、今日はこれらの本を紹介したいと思います。。

まず現在、第一級の資料とされているのは、精華女学校(現在の精華学園)の設立に関わった勝田孫彌の手による「大久保利通傳」です。
明治43年同文館から刊行されたこの本は全3巻、総ページ数2400ページに及ぶ大作で、書簡、日記、聞き取り、新聞記事、そして大久保を暗殺した島田一良の「斬姦状」まで収録してます。当時の価格にして2円(計6円)です。この本は又昭和45年になって臨川書店から復刻されましたが、その時の価格は各16000円(48000円)でした。
勝田孫彌が「西郷南洲先生傳」(明28)という西郷に関する本を著してることからも本書が平等な視点で書かれてるという事の裏づけになると思います。

次に紹介する本は、
昭和2年に民友社から発行された徳富猪一郎による「大久保甲東先生」。奇しくも2円という価格のこの本は猪一郎の父の知己が大久保に大恩あった伯爵だったという事から書かれたらしいです。話は反れますが、この民友社は徳富猪一郎(筆名は徳富蘇峰)が興した言論・思想系の出版社。自由民権運動で有名な「国民之友」もこの出版社から刊行されました。ジャーナリストであった猪一郎は後に内務省勅任参事官、勅選貴族院議員を経て、第二次世界大戦中は大日本文学報国会会長になりました。(大日本文学報国会会長ってなんだろね。)
で、昭和2年に刊行されたこの本は「大久保利通傳」に比べてさすがに文章が読みやすくなってます。
内容は「大久保利通傳」の再編集版といた感じで、最終章に大久保の人柄を偲ぶエピソードを集めた章にしてるとこなんておもしろいと思いました。入門編(?)としては最適だと思います。
今日紹介する最後の本は昭和13年に鹿児島県教育会(現在の県教育委員会ですね)が編集した「甲東先生逸話」です。題名のとおり、前出の本などから拾ったエピソードを集めてます。ちなみに、この本は1円50銭。
この5冊だけが、鹿児島市立図書館にある、読むに値する大久保利通関連資料です。あとは、これらの本を孫引きしたと思われる伝記とかです。こんな現状に大久保利通を尊敬している僕はガックリきちゃうのでした。

関連:同文舘出版/株式会社 臨川書店 RINSEN BOOK CO./旅研:民友社/旅研:徳富蘇峰/大久保利通大百科